2018水土里の語り部交流会inやまもと

2019年2月1日

Filed under: お知らせ — 水土里ネット秋田 @ 1:48 PM

◆◇今年も語り部交流会が開催されました◇◆

1月23日(水)三種町琴丘総合体育館にて「2018水土里の語り部交流会inやまもと」が開催されました。

秋田県では平成23年から「語り部交流会」が毎年開催されており、今年で8回目を迎えます。
農地や疏水を始めとした、農業農村に関わる歴史や文化を様々な視点からとらえ、語り伝えることで先人の思いや昔から受け継がれて来た農村に宿る精神(こころ)を再確認し、これを地域活力の向上地域振興などに伝えていこうという取り組みです。

開催にあたり、主催者代表 秋田県土地改良事業団体連合会山本支部 小川支部長より「山本管内での交流会の開催は今回が初めてだ。この管内には青森県との県境にある白神山地があり、そこから流れる清流は山本の多くの農地に潤いを与えてくれている。江戸時代には何本もの水路を作る疏水工事が行われ、数え切れないほどの先人たちの想いが山本には伝わっている。その中でも市川堰の歴史を見ると、150年ほどの長い月日と先人たちの不屈の精神のお陰で今でも沢山の水路で水が使われている。偉大な先人たちに敬意を示すと共に、この交流会を有意義なものとし後世までこの交流会を受け継いでいきたい」と挨拶がありました。

始めに、基調講演としてふるさと水と土指導員 あきた森づくり活動サポートセンター総括所長 菅原徳蔵氏より「桃源郷のふるさと」と題し、白神山麓「桃源郷物語」秋田藩初の穴堰・400年の歴史「岩堰物語」農業農村の文化・「森岳歌舞伎」の3つについて講演して頂きました。

「桃源郷物語」では、生涯を秋田で過ごし、秋田の文化を高めた江戸時代後期の紀行家である菅江真澄を基に、菅江真澄が山本管内を実際に旅して描いた「かすけ川上」、「牛箇頭首」、「手這坂」の3作品について説明して頂きました。

「秋田藩初の穴堰・岩堰」では、秋田県初代藩主・佐竹義宣を中心に、技術的にも困難であった穴堰をどのようにして開発したのか、その経緯や測量方法、完成までの道のりについて詳しく説明があり、岩堰に関しては、かんがい用水・防災用水・生活用水など今の二ツ井町の礎を築いた堰であり、コンクリートがない時代、川をせき止めるためには、先人たちの大変な苦労があったことを改めて知りました。

「森岳歌舞伎」は、江戸時代中期(260年以上前)旅の修験者・山伏が森岳で病に倒れた際、看病した村人に感謝し伝えた歌舞伎が始まりとされています。単なる農村の娯楽としてではなく、歌舞伎を行うことにより神や仏を喜ばせ代わりに人々の願いを叶えてらうために行われました。また、百姓が歌舞伎を演じることで現実では実現できないようなお殿様やお姫様に変身が出来、なりたい自分になれるという夢を叶える点も桃源郷の文化に関わっているそうです。
このように何百年も続いた伝統文化の力こそ、持続可能な村に必要不可欠であり、後世にまで伝えなければならないと本テーマについて締めくくりとなりました。

続いて、地域活動報告「学校は地域の宝、地域は学校の宝」について特定非営利活動法人 常盤ときめき隊 理事長 小林甚一氏よりお話しして頂きました。

講演の中では「地域を知る、地域から学ぶ」「地域を考える、地域を発信する」「地域と楽しむ、地域に感謝する」の大きく3つの題目に分け、常盤の良さについて地域の方々、常盤小・中学校の皆さんと連携しながら実際の活動報告を交え説明していただきました。
講演の中でとても印象的だったのが常盤小学校の皆さんが参加した能代市主催の「小学校ふるさと学習交流会」にて生徒のみなさんが話した「常盤にないものはない」というフレーズです。
このように小林さんの活動やそれを支える地域の方々の想いが児童の皆さんにもきちんと伝わっており、自然に感謝するだけではなく、代々語り継いできた先人にも感謝の気持ちを忘れずに日々過ごしていることが聞き手にも伝わりました。

次に同じく地域活動報告「農業用施設の維持管理と地域との交流」について水土里ネット能代地区 事業課 事業係主事 菅原理央氏よりお話しして頂きました。

秋田県能代地区土地改良区では能代地区、能代北部地区、東雲原地区、榊地区への農地へ水を運ぶための様々な農業用施設の維持管理を行っています。
農業用施設や農地は農業生産のためだけではなく、様々な多面的な役割も担っております。農業水利施設の周辺への花の植栽活動、農業水利施設の視察研修、幹線排水路の環境整備活動、そして農業水利施設や多面的機能についての出前授業を積極的に取り入れ、地域との交流を行うことで啓発普及にも繋がり、地域一体型の改良区となっていることが良く分かりました。

続いての地域活動報告は「真瀬渓谷山腹水路の保全と中山間地域(八森)の農業」について水路の現状と耕作している営農の中身を株式会社真瀬ファーム 総務部長 山本優人氏よりお話しして頂きました。

八森、真瀬地区の農業の基盤となっている赤岩堰は185年前から今日まで同じ水路が使用されています。今もなおこの赤岩堰用水路を利用できるのは、様々な困難な作業を克服しながら続けられた稲作や、重要な水を引く作業、田の面積を増やすために努力した先人たちの苦労があったからだという真瀬の深い歴史を教えていただきました。
先祖伝来の真瀬農地で育てた地元の野菜や米を食べ、地元で生活していくため真瀬農地を維持・管理することは、地域の人口増加や、活性化にも繋がります。真瀬農地で育ったものを食べながら地元の若者がこの地で暮らしていけるよう、今後も全ての基盤である赤岩堰を維持していきたいとお話しがありました。

次に、地域土地改良ヒストリー「砂丘地でのメロン栽培・複合経営への歩み」について水土里ネット浜口 前理事長 三浦政夫氏よりお話して頂きました。

メロンとの出会いから、どのようにして「プリンスメロン」を三種町浜口の地域に定着させたのか、そしてメロンとこの地域のために奮闘した経緯の説明があり、プリンスメロンとは、ノーネット系でマクワウリをやや丸くしたような、薄緑のつるりとした表面をしています。糖度も13度~14度と高く、香りもとても高いメロンです。
メロン栽培を学ぶため、温室メロンの産地である静岡県磐田町やプリンスメロン種子購入のため横浜まで行き学んだそうです。そのお陰で今のようなトンネル栽培が可能になりました。
今では栽培品種も多様化し、ウリ系のプリンスメロン、キンショウメロン、ネット系のアンデス、アムス、秋田美人、ナイル、真珠、グレース、デューク、秋田甘えん坊、タカミ、サンデーレッド、クインシー等、白系はホームラン、白雪、サンキューと時代に合った消費者好みの品種へと変化を遂げながらこのように様々な品種を作ることが出来るようになりました。

最後に語りフォーラム「能代・山本の水物語を次世代に繋げる」をテーマにパネラーとして本日講演して頂いた4名の皆さんの他にオブザーバーとして秋田県農林水産部農山村振興課 石川政策監も加わり意見交換を行いました。
また今回のコーディネーターは特定非営利活動法人 秋田県南NPOセンター 奥ちひろ氏に司会をして頂いております。

 

始めに「みどりの恵みとはどのようなことか」について意見を出し合いました。

菅原氏「農地は様々な多面的な機能があり、この農地そのものが共有の財産であるのではないか」

小林氏「子どもたちと一緒に活動していると、子どもたちは一つ先のことを考え行動している。そんな生徒たちと共
     に活動し、山本の自然と触れ合えることは幸せなこと」と意見が出されました。

このように「みどりの恵み」には農業だけに使われている水や土だけではなく洪水防止、景観などの機能もあり、共同作業することで得られる体験・発見を通し、様々な学びの場にもなり、地域との繋がりも生まれていきます。

次に「農業や文化などを次世代へ繋げるための課題とは何か」について話し合いを行いました。

山本氏「地域に子どもがいないことで地域の農地を守る世代がいない。それは地域に職場がないことが原因であ
     り、若い世代が都会へ出ないためにも農業で暮らしていけるようにするべき。その前提として学校では米
     の大切さ、食べ物ができる過程を教える機会が必要だと思う。この過程を覚えることで少しずつ農業にも
     興味が湧いてくると思うので、農業でご飯が食べられるようにすることが今後の課題だ」

三浦氏「子どもたちにとって安全な食べ物とはなにか、食べ物の大切さを幼い頃から教えるのも大切なことだ」

石川政策監「少子高齢化は全国の課題となっているが、特に秋田県は深刻な問題となっている。人がいなければ
        農業もできないため、いかにして人員を確保するかが1番の課題。県でも移住・定住の様々な政策を
        行っており秋田市だけではなく中山間地域にもいかにして定住してもらえるかも課題であるが、なか
        なか特効薬は見つからない。そのため、皆さんから手を貸していただき、地道にやっていきたい。農
        家の担い手については現在減ってはいるが、法人・組織の数だけ見ると増えている」
        とそれぞれの視点から語ってくださいました。

次にこれらを踏まえて「今後どのように文化等を保存・継承していくのか」について話し合いを行いました。

山本氏「農地は個人で所有するものではなく、国が管理して農業をやりたいという意欲がある人に充分な面積を与
     えて支援していくべき。地元で面積を増やすとしても個人の農地であるため所有者が分からないということ
     がある。このため十分な農地整備もできないので国は意欲ある人に農地を貸すべきだ。そうすることによ
     り農業の法人や団体に雇用の場が増え、担い手の確保にも繋がると思うので大きな団体に支援をして
     いくべきだと思う。」

三浦氏「農政のあり方により大きく変わるが、我々地域で騒いでも何の力にもならないような気がする。世界的に
     は小さな農家を守ろうという動きが高まっている中、日本は政府が動かなければならない」

菅原氏「改良区として、水土里の実践活動など、色々な農業活動に興味・関心をもってもらえるよう努力して
     いるが今後それを発展させていければいい」

小林氏「子どもたちと仲良くすることが大切であり、声をかければ返ってくる。これを続けていきたい」と
     意見が出されました。

これまでの話し合いを経て「会場の皆さんへなにか伝えたいことやポイント」について意見交換を行いました。

石川政策監「農政からすると様々な情報発信が大切になる。地元にいるからこそ分かる良さやその地域に
        しかないものなど、なかなか気づかないことが多い。農村地帯の方だけではなく都市部の人た
        ちとの交流もポイントになるのではないか。そしてこの語り部交流会のような全県的なフォー
        ラムはほとんどなく、これが1番大きなフォーラムではないかと思う。当初は国の事業で始まったが、
        2年ほどで終わってしまった。しかし全県各地から反響が大きかったため県の単独の予算で行うよう
        になった。来年は鹿角でやると思うが、そうすると全県回ったことになる。これからも引き続き
        頑張っていきたい」とお話しがありました。

最後に閉会のあいさつを秋田県山本地域振興局農林部 宮野次長より「本日は地域で様々な活動をしている方々にも来ていただき大変貴重な話しが聞けた。秋田県の農業を守り育てている農村との関係は科学がいくら進歩しようとも決してなくしてはいけない貴重な関係だと思っている。これからますます社会が進歩する中、我々が何をするべきなのかはこのフォーラムをもって感じ取ることができたと思う。春にはいよいよ新しい時代を迎えるが、その時代の中で決して忘れてはいけない大事なことがあると思う。それは温故知新の精神であり、先人の教えをしっかりと後世にまで語り継いで行くことだと思う。このようなことを一人一人が肝に銘じてこれからの農業農村をますます発展させることが大事だ」とあいさつがあり、今年度の水土里の語り部交流会は締めくくられました。